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恋の片道切符

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「そこの看護師、職務怠慢ですね。弱り切った患者を放って友人と楽しく談笑ですか」


「あっ、す、すみませぇん!!
土屋さん、すぐにレントゲン……」


レントゲン?今から移動するだなんて、耐えられそうもない。

私は力なく首を振り、傍にいた千鶴に無言の訴えをかけた。


「……こんな状態で検査が出来ますか。
いいからドクターを呼びなさい」


「は、はい!」


千鶴が冷たく言い放つと、満月さんは血相を変えて廊下へ駆けて行った。


「アネゴ、大丈夫ッスか……?」


総大くんは廊下へと走り去った満月さんと、ベッドの上で咳き込む私の方へ交互に視線をやり、いつにも増して挙動不審な動きをしていた。


「君はさっさと帰って下さい。
澪の容態が悪化したのは君が入室してからです」


そういうアンタにも原因があるのだが……。

朦朧とした意識の中でもツッコミは休まらない。


「す、すんません……それじゃアネゴ、お大事に」


総大くんは罰が悪そうにそう言い残すとすぐに退室し、しばし千鶴と2人きりになった。



「澪……大丈夫ですか、澪、」


私が弱った時に見せる、この不安そうな顔は未だに慣れない。

千鶴は必死に私の手を握り締める。

「……た、ぶんね」


呼吸困難で形振り構っていられず、千鶴の方へ握られていない方の手を差し伸ばした。

まるで千鶴に触れれば痛みが和らぐようなそんな気がして、救いを求める手は夢中で空を仰ぐ。


「澪、ごめんなさい、僕のせいですよね、本当にごめんなさい、お願いです早く……どうか」


すっかり混乱し切っている千鶴を目の当たりにしたせいか、苦しさの中、どこか冷静でいることができた。

私の両手は、大きな手の中に容易に収められる。
千鶴は私の額に自分の額を当て、瞼をきつく閉じていた。

熱でもあるんじゃ?というほど千鶴の額は熱かったけど、それはこの行為に不謹慎にも舞い上がっている自分の熱なのかもしれない。

熱い……。
でも何だか、とても落ち着く。

 
 

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