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恋の片道切符
面会謝絶
しおりを挟む「だ、大丈夫……?」
ツンツンと千鶴の頭を突いてみる。
さすがに酸素ボンベは痛かっただろうか。
「……み、お、の……馬鹿!!
ちょっと胸くらい触らせてくれたって良いじゃありませんか!!
澪の馬鹿!お馬鹿さん!いけず!」
千鶴は頭に出来たタンコブによる痛みではなく、カナブン退治の目論見遂行叶わなかったことに涙し、そのまま掛け布団の上でおいおいと泣き始めた。
「大丈夫なようね」
『馬鹿と言う方が馬鹿』を地で行くこの馬鹿に、私は菩薩のように穏やかな表情を浮かべ内心嘲笑った。
——コン、コン
「土屋さぁん、入りますねー」
メソメソやらシクシクやらといった千鶴の泣き声が部屋のBGMになり始めた頃、ドアの向こうから看護師の声がした。
——ガラッ
「あ、土屋さん。初めましてー。
私、担当の満月と申しますねー。
お加減どうですか?そろそろレントゲンの時間なんですけど、大丈夫でしょうか」
「あ、まあ……」
『大丈夫です』と言いかけた口が俄かに遮断された。
そうそう、忘れていたけど私……再び倒れそうなほど苦しくて辛くて泣きそうなんです!!
コイツのせいで!!!!
「つ、土屋さん?大丈夫?
顔が真っ青じゃないですかっ。
お薬ちゃんと飲めましたか?」
思わず涙を流した私に気付き、看護師の満月さんは丸い眼鏡の奥で困った風に目を細めた。
「う、ッく……こ、この人、面会謝絶に……しちゃって下さいっ」
あまりにも切なくて嗚咽が咽び上がらぁ。
「え、この方は彼氏さんじゃありませんでしたか?」
布団に伏せる千鶴の顔を訝しげに覗く満月さんに、その答えは流鏑馬の矢よりも早く返ってきた。
「ええ、いかにも僕が澪の『彼氏』ですが何か」
——キリリッ
はあ、もう、『何か』じゃねーよ。さっきまで延々エンエン泣いてた癖に。
いつになったら自分の肺炎が治るのか神様に問いかけながら、カナブンの居ない胸に手の平をそっと当てた。
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