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恋の片道切符

カナブン

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「そんな心配要らないから。
そもそも苦しすぎてそんなモン最初からしてないし」


「し、してない!
してない……してない!?
と言いますと、今、澪はつまり、ノー……ブ……ラ、な、の、で、す、か?まあ本人がそう言うのですから間違いは無いでしょうが、照れ隠し故の嘘という可能性も無きにしもあらず。この目で確かめるまでは……そう、百聞は一見にしかずという諺はまさにこの瞬間の為にあるという」


いつになく真剣な眼差しは血走っていて、それはもう恐ろしすぎて。

アンタもう外見こそが綺麗だからセーフだけど、これがただの頭部が禿げ上がったオヤジだったらアウトだぞ。


「アホ。誰が見せるかっての」


「入射角……この時の角度が決め手……うっかり……手が滑り……あわよくば……そのまま……この看病イベントの……やはり最初の角度が、決め手!」


オマエは思春期か。


「おや、澪。そんな所、つまり胸部、主に心臓の辺りに、コウチュウ目コガネムシ科ハナムグリ亜科のカナブンが付いていますよ?カナブン、そう、カナブンがね。
フッ。おかしな人だ……胸にカナブンなどを付けて僕に取って取ってとおねだりとは……良いでしょう、取って差し上げましょうね。恐くないですよ、取ったら直ぐに窓から逃がしますから」


「カ、カナブン!?」


——ヌッ


私がまさかのカナブン発言に戸惑ったその一瞬の隙を突いて、千鶴の手がこちらに伸びてきた。

その一連の動きときたら、まさに獲物を狙うハイエナに見紛うほどである。


「させるか!」


——ズゴォーンッ!!!!


「カナブブブッ!!!!」


「っあ!やべ……思わず」


ベッド脇にあった酸素ボンベを手に取った次の瞬間、防衛本能でそれを獣の頭部目がけて投げ付けていた。

私の照れ隠しもここまで来ると、救いようがないわよね。
あ、照れ隠しって認めちゃったしな。世も末だな。
輝かしい21世紀に乾杯だな。
浮かれちゃって意味不明だな。
私の頭な。


 



 
 

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