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恋の片道切符
それでは口移しで我慢して下さい
しおりを挟む「ええ、澪の為に一生懸命剥きました。召し上がって下さい」
「……遠慮する」
「何故ですか、さあどうぞ。
あ、もしかして食べさせて欲しいのですか?」
千鶴は妙に自信有り気な顔付きで、太陽の光を受けぬらぬら光っている見事なまでに球体なメロンを、私の前にずずいと突き出してきた。
「いや……だからさ。
丸ごと食えと?おかしいでしょ。
その黄緑色の直径約15センチの果物食えとか。
一応病人なんだからさ、もう少し小さく切ってよ」
「もう澪ったら我が儘なんですから……仕方ありませんね。
それでは口移しで我慢して下さい」
こんなメロンの汁のごとくベッタベタな台詞を、よくもまあ真顔で言えること。
「何が仕方ありませんねぇ~だ。
せめて四等分くらいに切ってよ」
「随分と注文の多いお姫様ですね」
「……いや、もう突っ込まないわよ。
ていうか悪いんだけど、私メロンアレルギーで食べられないんだわ」
「知っています」
髪を掻き上げる仕草自体は悩ましげなほどに色っぽいのに、手に付いていたメロンの汁が髪に絡まってすっかりアホ丸出しの千鶴が得意気に言う。
「おい。何の嫌がらせだよ」
「いえ、メロンの果汁で口が痒くなって悶える澪を見たいあまりにですねおっと、そんなに動いたら体に障りますよ?
安静にして下さいね」
コイツ……!
私がグーの手を振りかざした途端、体を労る素振りを見せやがって。
「誰のせいで……あ~あ。
肺が痛いなぁ~」
「み、澪!気をしっかり!
今すぐにドクターを呼び付けますから!」
「呼ばなくていいから!
……あのねぇ。アンタが四六時中一緒に居るせいで、私のツッコミが作動しっぱなしなのよ。
頼むから……頼むから!静かにしててくれない?
正直、喋るだけでも苦しいんだから」
それでも喋り続ける私の健気さときたら。
まあ、本音を言えば沈黙を恐れてのことなんだけど。
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