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また恋に堕ちる
もうすぐ春ですね
しおりを挟む「う、お、おめでとーございますっ!」
驚きのあまり、口が思うように動かない。
「うん、ありがと。
土屋さんも頑張ってね」
ああ、爽やかなイケメンスマイル。
そんな顔して河本さん、アナタ実はゲテモノ料理とかイケちゃう人だよね。
もう、なんつーか。
何とやらと野獣みたいなね。
あの人間ひとり平気で食べそうな大口で、河本さんをペロリといっちゃいそうで恐ろしいよ。
……なんて言いたいところだけど、幸せそうなお2人さんに水を差す真似は出来ないわね。素直に祝福しよう。
その日は、血痕……じゃないや、結婚を控えてルンルン気分の青木主任の元に付き、入浴介助や排泄介助をさせてもらった。
主任が薔薇色のパワーをおすそ分けしてくれたお陰か、体調は優れないものの何とか介助の方は形になってきた。
ようやく気持ちの良い日誌が書けそうだと思ったのも束の間、帰りの列車の中で疲れは一気に膨れ上がった。
今にも胃袋が、ほんの小さな刺激で弾けてしまいそうだ。
ヤバイ……これはヤバイ。
頭の中でグルグルと『ヤバイ』の単語が渦巻く。
脂汗を拭い、胸に手を当てながら、ひたすら時間が過ぎるのを待った。
1分は1時間に感じられた。
体が冷えていく。
やっとの思いで下車すると、千鳥足で駅から出た。
電柱にすがり付いた途端吐き気に襲われ、そのまましゃがみ込んだ。
焦点を合わせようとすればするほど、景色は霞んでいく。
「……嘘でしょ」
蛇行しながらも何とか帰路に着いたが、限界が迫っていた。
あと少しで自宅に着くというのに。
体がどうしても動いてくれない。
——ベシャァァ!!
右足が地面に着地したと同時に、みぞれ混じりの道路に滑り込んでしまった。
「さいあ、く……」
言葉を発することすら、胸の奥で痛みの種になる。
息が出来ない。
痛い。
寒い。
もうすぐ……春ですね。
雪解けの大地に全身を這わせて、そんなことを思ってみた。
恋を、してみませんか。
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