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また恋に堕ちる

あなたの弟さんは変態ですけど?

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「全部、思い出したんですからね」


「全部……?」


「ええ、全部です。
この背中の傷が、千鶴ではなくアナタに傷付けられたことも」


「あの時お前は、あいつの名前を呼んだ」


「一体全体、何のおつもりですか。仮にこの傷が千鶴によるモノだとしたら?
私がショックを受けるとでも?」


「……」


「あのですね!
そうでなくとも私はあの男に、もっと酷いことをされているんですよっ」


その時、紫伸さんの顔が引きつった。
だけどそんなの見なかったことにして私は続ける。

きっとこれから話す内容にアナタは、想像を絶するショックを受けるだろう。

アナタが思い描いている完璧な千鶴は、もうどこにもいないのだから。


「えーとですね。
自宅に不法侵入は毎度のこと、下着を盗んだりそれを嗅いでみたり、勝手に私の恋人だとか名乗っては珍妙な歌をプレゼントしてきたり……あ、その歌聞きたいです?私あの恐怖の歌が耳から離れないんで、すっかり覚えちゃいましたから。ていうか!
アナタの義弟さん、頭がおかしいんじゃないでしょうか?
どうにかして下さい。
私だって迷惑しているんです」



痛々しい沈黙が降り注ぐ。

私がベラベラと並べ立てた後、紫伸さんは何とも言えない顔付きで絶句していた。

これって俗に言うドン引きの面だ。
アナタって、なかなか正常な感覚の持ち主ね。



「……だから。
残念ながらもう何が起こっても、私がアイツに失望することは一切無いです」



紫伸さんは何かを考えているようだったが、発狂したり意味不明な言葉を送ってくることは無かった。

彼はただ一点を見つめ続け、そのまま長椅子と一体化するのではないかと思うほど黙りこくっている。



「見て分かる通り。
体も、心だってもう、10歳の女の子じゃないんです。
今ならアナタを殴ることだって出来る。今ならこうやって言い返すことも出来る。
私はもう変わったんです。
あの頃の女の子じゃない。
だから、千鶴について何を想うと私の勝手なんです」

 
 


 

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