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少女の恋③

月を追いかけ続ける太陽のように

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潰れた。


グチャリと悲惨な音を立てて、確かに潰れた。

生まれて初めての絶望は、こんなにも可愛らしい姿をしているのか。

体中が痺れるのを感じながら、少年は頭を上げた。



「……君の恋人です」



たった今初めて自分以外の存在に気付いたように、澪は目を見開いて物憂げな表情の少年に視線をやった。



「お部屋間違えたんじゃない?」



「いいえ、僕は土屋澪さんに用があって来ました」



「どうして私の名前を知っているの?」



夏が、終わる。

少年の初恋と共に、終わっていく。



「……僕がもっと、君を守れるようになったら。
君が……貴女が大人になったら。
また僕と出会って下さいね」



焼け焦げた夏の臭いが、どこからか風に乗ってやって来た。

少年はそう告げると部屋を後にした。



独り残された澪は再び、ぼんやりと窓の外を眺めた。


蒼白の月が昼間の空に浮かんでいる。

何かを思い出しそうな気がしたが、数分後には
『月は太陽から逃げているのかな』などと考えていた。


月が夜空で輝くのは、太陽が光を与えてくれているから。

ぐるぐる回っては月を追い掛けて。

月が逃げても太陽はまた、追い掛けて。

必死に諦めず。


再び抱き締める日を、夢見て。




 
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