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少女の恋③

口ずさむ曲を聞きながら

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「お前もこんな風にしてやるよ。
そしたらあの男は何を思うだろうか。ああー痛い、くそっ……傷が……痛いんだよ……ああ、もう楽しみで仕方ない。あの男の打ちのめされた顔、きっとこの傷痕より醜いに違いないそうだそうに違いないお前らが母を殺したのと同じ位そうに違いない」


泣き叫ぶ力すら残っていないのか、澪は喪失し切った顔で少年を見つめた。

涙の痕が乾いている。
少年に送る眼差しすらも。


「何だその目は何だそれは」


ガリガリ。

地面の石に押し付けられた刃がこぼれていく。


「誤解してるよ、お兄ちゃん。
私はおばさんを殺してないよ」


「何を言う。お前が殺したんだ。
お前が変な事を吹き込んだから、母は生きる目標を失った」


「違うよ。おばさんは、最初からお兄ちゃんを嫌ってなかったもの」


「……お前に何が分かる。
あの人は毎晩のように泣き、幼い僕に言い聞かせたんだ。
無惨な傷を負わせられた可哀想な僕を抱き締めて言ったんだ。
私が殺してあげると。
お前に似たその目で言い続けた。
その目で」



透明な滴が赤黒い肌を滑った。

その時澪は、皐月が見せてくれた家族写真を脳裏に浮かべた。



「その目で、言った。
その声で、僕を呼んで、くれたのに……っ」



涙の粒が、土を点々と染めていく。


「ど、して……あいつが君を、どうして何もかも僕より先に……手に入れる……妹だって僕より先にあいつに懐いた……それなのに僕のペットを殺したり僕の使用人を奪ったり僕の顔面を汚したり……
何でも手に入れる癖に」


――ガッ!


「いっ……!」



少年は——火傷の少年は、澪の頭部をジャングルジムに殴り付け、そして小さな背中にゆっくりとナイフの刃を立てた。



「さような、ら、」



ブツ、ブチブチ……



衣服と共に皮膚が裂かれる音を鮮明に聞きながら、澪の意識は飛んでいった。

背中に激痛が走る間も無く、遠い空へ昇っていく気がした。

最後に瞳の奥に映し出されたのは、涙に濡れた少年の綺麗な顔だった。

そして。

最後に耳に残ったのは、火傷の少年が口ずさんだ曲だった。

さざ波を想い歌うその声は、火傷のように脳裏に焼き付いた。



『愛するあの人はもういない
立ち尽くした僕』


 


 


 
 

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