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少女の恋③
とある歌手に
しおりを挟むしかし、少しだけの睡眠のつもりが午後のサイレンと共に目覚めてしまった。
澪は少年が作り置きしてくれていた昼食を食べた後、暇潰しにマンションの近くにあった公園に行くことにした。
昨日、バス酔いをして少年の肩を借りながら歩いていた時に発見したのだ。
相変わらず閑静な住宅街。
公園にはたくさんの遊具があるのに、そこに子供の姿は見当たらない。
澪はひとりブランコに跨り、軽く足を蹴ってゆらゆらと揺れてみた。
ギイ、ギイ。
錆び付いた鎖の音が、何だか不快だ。
「おばさん、元気かなあ」
空に向かって澪は誰に言うでもなく呟く。
退院してからは、皐月のことばかりが気掛かりだった。
結局全て渡すことが出来なかった千羽鶴の件もそうだが、それよりも最期に義理の息子のことをどう想っていたのかが気になったのだ。
「憎いのは、しょうがないのかな」
皐月の話も、少年の話も、どちらも可哀想に想えて。
けれど、千羽鶴を手にした瞬間に見せた皐月の顔を忘れられなかった。
「そういえば、おばさん……誰かに似てるなぁ。
誰だっけ…………あっ!」
澪は少し興奮気味になりながら、あることに気付く。
「そっかぁ……!
おばさん、あの歌手にそっくりなんだ」
胸を弾ませて皐月の顔や声を必死に思い出していると、ブランコの錆びた音なんかすっかり気にならなくなった。
「何だっけ、あの歌を歌っている人だ」
あまり芸能人に興味が無い澪だったが、よくテレビのCMで流れるその歌には何故か惹き付けられた。
「……愛する人はもういない~、取り残された僕ぅ~……。
何か悲しい歌だなぁ」
ひっそりと静まり返る公園が、物悲しさをより一層深める。
コンクリート製のキリンやシマウマも、どこか悲しげな顔でこちらを見つめている気がした。
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