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少女の恋②
暇だったから
しおりを挟む「……ひとつ、聞いても良いですか」
柔らかく目を細めた少年は穏やかに話し始めた。
「なあに?」
澪は少年に質問されたことがただ嬉しくて、満面の笑みで返事をした。
「……あの人の事を、君はよく知っているようですが」
「おばさんのこと?」
「……はい」
「あのね、私が入院してた時の話なんだけど。
病院の中庭が見える廊下で毎日外を眺めてたら、ある日声が聞こえたの。おばさんがお菓子あげるからおいでって」
「……はい」
「そしたら、おばさんは……」
『ナイフを』
喉の辺りでその言葉が詰まる。
少年を傷付けるような発言は、なるべく避けたかった。
「……おばさんは、私の千羽鶴を嬉しそうに受け取ったの」
「千羽鶴を?」
「……うん。
あのね、お兄ちゃん。
怒らないで聞いてほしいんだ。
あのね……お兄ちゃんのお兄さんをイジメないで」
やっと、約束を果たせた。
澪は癇癪が弾けるのを身構え、ギュッと目を瞑った。
しかし、少年の冷たい声や怒った声は聞こえなかった。
おそるおそる目を開けてみれば、平然としたいつもの様子で溜め息を吐く少年の姿があった。
「まあ、そんな事だろうと思っていましたが」
「……怒ってない?」
「何故怒らなくてはいけないんですか」
「……だって」
「あの人が何を言ったのか大体の予想は付きますが、僕は別に義兄が憎くて嫌がらせをしていたわけではありません。
ただ単に、暇だったからやっただけです」
「ヒマだった、から……?」
「そうですね。暇だったからです」
本妻の子を憎んだ上での行為ではない。そう少年は言ったが、澪はいまいち理解ができなかった。
チクタク。再び時計が刻んだのを2人は聞いた。
「昔は今ほど歪んでいなかった記憶がありますが……そうですね、あれは僕が君ぐらいの歳の頃です。
ある日、使用人達の会話を立ち聞きしてしまいまして。
あの人が僕の実の母親では無いという事実を知りました。
それまでは実の母親と思い込んでいましたが、どこかであの人の笑顔を虚しく感じていたので、特に何も思うものはありませんでした。
まあ、それがきっかけで義兄虐めに拍車が掛かったのは否定出来ませんね。あくまできっかけに過ぎませんが」
澪は何と言えばいいのか、検討も付かなかった。
もし、自分の母親が本当の母親ではないとしたら?
想像でしかなかったが、それはとても悲しいことだった。
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