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少女の恋②
何も感じない
しおりを挟む少年は自分の体を抱えるようにして両の腕を握り締める。
肌に爪が食い込んでいた。
「……どうしてあの時、僕を引き止めたんですか」
「だって、おにいちゃ」
「そのまま放っておけば僕は死ねた」
「イヤだよ!
そんなこと言わないで!」
「僕は背中を押して欲しかった」
「イヤだぁ!!」
「死んでいるのか生きているのか、それすらも分からない世界に僕は居たくありません」
「そんなことない!
お兄ちゃんは生きてるでしょ!」
「何も感じません。
何も楽しくありません。
何も心を揺るがしません。
何ひとつ感動しません。
全てがどうでも良いんですよ」
「どうでもよくないよ……きっと何か楽しいはずだよ」
「きっと、何か。
何でしょうそれは。僕だって探しましたよ、その『楽しい』事を。
死ぬ物狂いで探しました。
何ひとつ見付かりやしません。
物の中にも人の中にもそんなものはありません。
泣き、笑い、苦しみ、怒り、喜び、何かを成し遂げ、誰かと分かち合う。
彼等と同じ血は僕の中にも流れているはずなのに、何もかもが完璧なはずなのに、どうしても僕は何も感じません」
「……お兄ちゃんと初めて会った時、駅のおじさんに笑ってたよ?
ニッコリ、笑ってたもん。
キレイだった」
「あんなもの、顔面の筋肉を動かせばいいだけの話です。
目の前であの駅員が列車にひかれ五体バラバラとなり即死しようとも、僕は何とも思いません」
「そ、そんなことないっ」
「何かを育てる喜びも分かりませんでした。
逆に、何かを殺せば同情したり哀しんだりするのかと思いましたが、一層詰まらないだけでした。
義兄が飼っていた犬や猫や鳥達は血を流し硬直するだけで、何ひとつ与えてくれませんでした」
少年の口から『鳥』という単語が出た時、澪は小さく叫んだ。
しかし少年は何事も無かったようにして、呪詛のごとく心の内を明かしていく。
外は風が強いのか、ガタガタと換気扇を不気味に叩いている。
もう時計の音すらも聞こえなかった。
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