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少女の恋②

家に連絡を

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何時間が経過しただろう。
目を覚ますなり、澪は蛍光灯の光に目を眩ました。

灰色のカーテンは閉められている。もう夜だった。

澪は少年の姿を探しキョロキョロと首を振ると、カーテンの向こうに人影を発見した。

それに気付いた澪が立ち上がろうとする前に、ベランダから少年は現れた。


「具合いはもう大丈夫ですか」


「うん。
あ……ここ、お兄ちゃんのおうちなの?」


「そうですが」


「1人で住んでるの?」


「いけませんか」


「いや、いけなくはないけど……」


「また詮索をする気ですか」


大儀そうに溜め息を吐き、少年はテーブル脇に腰を下ろすとポケットから煙草の箱を取り出した。

慣れた手付きでジッポーで細筒に着火をすると、紫煙が天井に向かって垂直に昇り始めた。


「……お兄ちゃん、いくつ?
タバコはハタチから吸っていいんだよ」


「今度は説教をするつもりですか」


「体に悪いんだよ」


「知っていますが」


「……」



時計の音がチクタク鳴り響く。



「こんな時間ですが、どうしますか」


煙を吐きながら少年は呟いた。


「どうしよう」


「……携帯を貸しますから、家に電話を入れて下さい。上手く嘘を吐くんですよ、出来ますね」


モジモジしながら澪は目を泳がせた。
煙草を吸う少年の姿を、何となく直視できなかった。


「あの……ね、引っ越したばっかりだから、番号分からないの」


「は?」


艶やかな黒髪を掻き分けて、少年は澪を睨んだ。

氷り付いた空気に耐え切れなくなった澪は、話題を変えようとした。


「今日ね、マユちゃんの家に泊まる約束してたの」


少年はそれを聞くと、トートバッグの中身の正体を把握した。


「そうですか。
それでは、明日家に帰ったらその友達の家に泊まったと言うんですよ。
いいですね?決して何があっても僕の名前を出さないように 」


「うん、分かっ……げほっ」


煙草の煙で澪は咽せ込んだ。
少年はそれに気付くと億劫そうに火を揉み消した。


「気分が悪ければ、トイレはそこなので」


「いや……大丈夫」


澪は幼いながらにも、好きな人の前で醜態を晒したくないと思ったため遠慮をした。


「僕はこれから風呂に入りますが、その間大人しくしていて下さい。勝手にその辺りの物を物色しないように」


「う、うん」


 


 
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