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少女の恋②

他人は他人

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「……お兄ちゃんの言うことは、いちいちよく分かんないけど。
でも、その人の色んなこと知ったらもう他人じゃないよ」


「いいえ、他人は他人です。
例え秘密を百知ろうとも、他人は他人のままですよ」



ガタガタとバスは激しく揺れる。
2人は沈黙を迎えた。

信号に差し掛かるとガクンと急停車し、青になる途端に急発車の繰り返しのため、少年と澪と他の乗客の頭はゆらゆらと揺れる。

窓の外に目をやれば、他の乗用車を次々に追い抜いて行くのが分かった。
目まぐるしいその風景を澪はただ眺めた。

脳みそをグルグルと誰かに掻き回されているようだ。
次第に胃の奥は気持ち悪さで一杯になった。


「家が近くなったら、ボタン押して下さい」


冷たく少年がそう言うも、澪は返事もしなかった。

異変に気付いた少年は、グッタリと体を沈めている澪の肩を軽く叩いた。
寝ているのかと思ったのだ。


「寝ないで下さい。本当に君は面倒……」


そう話す途中で、少年は澪の顔色にギョッとした。

怪訝とした表情で周囲を見回す。
誰か、他の大人に任せられないだろうか。

しかし運悪く他の乗客は腰の曲がった年寄りばかりで、耳が遠く覚束ない足取りの人種に頼んでも、返って面倒になりそうだ。

少年は仏頂面で思案した。



「本当に、君は面倒なお荷物ですよ」


感情を持たない冷たい声色で少年は呟くと、目的地まで澪の小さな背中をぎこちなくさすった。

目の前で嘔吐されると、それ以上に面倒なことは無いと判断したからである。


少年はボタンを押した。

しばらくして緩やかに車体が減速した後、澪の手を握りバスを降りた。



「もう少しですから我慢して下さい」


傍らでグッタリとした幼い人物に、少年は棒読みで励ます。

澪は口を真一文字に閉ざす代わりに、手の平に力を入れて返事を寄越してきた。

少年はそれを確認すると溜め息を吐き、自宅へ向かった。

 
 


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