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少女の恋

屋上

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少女はそう思うと困惑した表情で少年の顔を見上げる。

しかし、見てはいけないものを見てしまった気がした。

今の今まで仮面を被ったような表情をしていた少年の顔は、とても、とても哀しそうに歪んでいる。


少女は気付いた。


隣に立っている綺麗なお兄ちゃんが、皐月が言っていたどちらかの息子であることに。



「……あの、もしかして……」



しかし少女の意識は少年からすぐに外される。

何故なら、少年がドアを開けた先の室内に誰もいなかったからだ。

真っ白なベッドには、誰も寝ていなかった。

そこにいるはずの真っ白い肌をした華奢な女性は、姿形も無い。

残されたのは、几帳面にベッドメイキングされたガラ空きのベッド。

少女が贈ったはずの、千羽に満たない千羽鶴もそこには無かった。


少女はただ困惑するばかり。

しかしその困惑も、すぐに頭からはじき出される。

少年が突然、走り出したからだ。


「……お兄ちゃん!?どうしたの!」


駆け出した少年に驚いた少女は大声を上げると、すぐにその後を追った。

嫌な予感がした。




——カンカンカンカン!!



鉄の音が激しく鳴り響く。

2人の足音は、屋上に向かう階段を乱雑に鳴らした。


「待って!!どこに行くの!」


乱暴にドアを叩き破ると、少年は真っ直ぐにフェンスの方へ走って行く。

少女はゼエゼエと肩で息をし、激しく耳打ちする心臓の音に目を眩ませた。


——ガシャ、ガシャ


早送りされる映像は、あの日皐月と出会った時と同じような茜色に染まっていた。

少年はフェンスをよじ登っていく。

少女の頭の中は混乱で一杯になった。


 



 


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