上 下
314 / 399
少女の恋

カラス

しおりを挟む



少女はそのことに寂しさを感じるよりも、少年の綺麗な横顔に見とれることで一杯一杯だった。



「……何見てるんですか」



お世辞にも好意的とは言えない少年のその態度に、少女は怯むどころか余計に惹かれてしまった。


「ねえ、ありがとう」


首をかしげながら少女が礼を言うと、折鶴の入ったレジ袋も一緒にガサガサと音を鳴らす。

それが耳障りなのか少年は鋭い目付きで折鶴を一瞥した。
しかし何も言わずに再び窓に顔を向けてしまったので、少女はじれったそうに話し続けた。


「あの、お兄ちゃんはどこに行くの?私は病院に行くんだけど」


「何処だっていいでしょう。君には関係ありません」


バッサリと斬るように少年は返答した。頬杖を付き、ひたすら風景を眺めている。

一方の少女はその絵になる姿に夢中になり、何とか会話をしようと試行錯誤した。


「教えてほしいな」


「……」




列車の騒音がしばしの沈黙を掻き消した後、少女はめげることなく無謀なコミュニケーションを再開した。



「お兄ちゃんって、カラスに似てるね」


「は?」


少女の顔は途端にパアッと明るくなった。

『やった!』と今にでも口に出してしまいそうなほど、それはニンマリとした満面の笑みであった。

何故なら少年が、やっとまともにこちらを向いてくれたからである。

しかし端正な顔は彫刻のように無表情で、何を考えているかは容易に想像できない。

本音を言えば、少女は少年に先ほどのような笑顔をして見せてほしかった。


 

しおりを挟む

処理中です...