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少女の恋

端正な顔立ちの少年

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「どこへ行くんだい?」


「あ、西十字病院に」


「ああ~それならね、このボタン押せば出てくるよ。
そんなに遠くまで1人で行くのかい?」


「はい」


「それなら気を付けるんだよ?
白い線からはみ出したら危ないからね」


「はい、大丈夫です」



親切な駅員がプラットホームを指差しながら白線の説明をしていると、少女の背後から学生服を着た少年が現れ、少女と駅員をすり抜けて自販機の前に立つと切符を購入し始めた。

駅員の話を聞きながらその少年の動作を盗み見ていた少女は、少年が自分の行き先と同じ切符を選んだことに気付く。

それに気付いた駅員は少女の視線を辿った。

少年は何事かと、自分を凝視する見知らぬ少女と駅員に不審な眼差しを向ける。

少年の切れ長の涼しげな眼が薄っすら歪むと、少女はハッとしてすぐに目を逸らした。

最初は少年が買った切符を見ていたはずなのに、いつの間にか少年の顔をまじまじと見つめていたのだ。

少女の頬は桃色に染まった。


「あらー、これは藤堂さんのご子息さんで?
こんな寂れた駅なんかに何用で?
いつもは高級な、あれ、リムジンとかに乗ってるんじゃないのかい?」


駅員は口をあんぐりと開けながら、物珍しげに少年を見つめた。


「いえ、いつもそうとは限りませんので」


少年は端正な顔に笑顔を張り付けたが、少女の目線は丁度少年が握り締める切符にあった。

駅員は少年の笑顔に男ながらにもウットリとし、上機嫌に喋り続けた。


「へへ、そうですか!謙虚な青年ですな~、いやぁ~流石!
ウチの馬鹿息子に爪の垢煎じて飲ませてやってくれないかい」


しかしその一方で少女は、少年の手の中で無惨に朽ちていく切符から目が離せなかった。


 

 

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