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少女の恋
良くなってね
しおりを挟むそれからの数日間、少女は酸素ボンベをガラガラと引きずりながらも献身的に皐月の部屋に訪れた。
1日に約百羽、折鶴のプレゼントをしては皐月を驚かせた。
「すごいわね、またこんなにたくさん。1日で折るの?
もしかして、夜中まで折ってるんじゃ」
「うん、どうせ眠れないからね」
「ちゃんと寝なきゃ良くならないわよ。
お母さん、心配するでしょう」
「んーん。お母さんは妹のことばっかりだから」
「……」
「あ、気にしないで。
お母さんのは、ただのエコヒイキだから」
「そう、良かった」
「おばさんって、ホントは優しいよね」
「……そんなことないわ」
明くる日も、明くる日も、少女は溢れるほどの量の折鶴をレジ袋数個に分けて皐月に届けるのが日課になり、互いの間に不思議な絆が芽生え始めた。
しかし、それと同時に少女は酸素ボンベをガラガラと転がすことが無くなり、皐月の部屋は看護師の出入りが頻繁になった。
「あのね、あと五十羽なの」
少女の手の上に乗った赤い折鶴を見て、皐月は優しく微笑んだ。
「本当に?あと、もう少しね。
いつもありがとう」
せわしなく部屋を出入りする看護師は少女の存在に気付くと、苦笑いを浮かべる。
少女はそれを知ってはいたが、どうしても千羽ぴったりの折鶴を彼女に届けたいと想い、椅子から腰を上げられずにいた。
一方の皐月は日を増すごとにやつれていくのが目に見えていたが、次第に少女に対する物腰は優しいものになっていく。
これが本来の姿であり、少女と最初に会った日までの自分は憎しみと哀しみが作り上げた偽りの姿だった。
「ごめんね、ちょっと出てもらえるかな?」
医者が入室するなり少女に優しく声をかけた。
看護師達はそれを合図に少女の両腕を掴み、退室を促そうとする。
しかし少女はなかなかベッドの脇から立ち退こうとせず、名残惜しげに皐月に話しかけた。
「あのね、絶対忘れてないから。
おばさん安心していいよ。
だから、きっと良くなってね」
「ええ、絶対にね」
「絶対だよ!」
「……うん」
少女と皐月を引き離すように看護師達は少女を部屋の外に追いやった。
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