305 / 399
少女の恋
肺
しおりを挟む皐月の肺がミシミシと悲鳴を上げる。
自分が今まで何をしようとしていたのか。
それを幼い子供に知られてしまうことに恐怖を感じ、おそるおそる少女の顔を見た。
自分とよく似た面立ちの少女は至って冷静であり、たしなめるような目付きで自分を見つめていた。
まるで自分の方こそが過ちを犯そうとした子供のように思えて、皐月は羞恥に薄らと顔を赤らめる。
「そんなおっかない顔でナイフを持ってたら、果物が腐っちゃう」
「そうね、ごめんなさい」
しかしながらも皐月の中の憎悪は勢いを止めることがなく、側に少女がいるのもお構いなしに肺の中をのたうち回った。
「でも、果物なんてないけど、何をむこうとしてたの?」
少女の鋭い指摘に今度はギクリともせず、皐月は虚ろな目をして相変わらず淡々と答えていく。
「そうねぇ、果物は今度剥くことにするわ。家族がお見舞いに持って来てくれたらね。
……お嬢ちゃんに家族は何人いるの?」
「私を入れて4人かな」
「そう。私にも、たくさんいるのよ。
夫に、夫の父と母、それに2人の息子と生まれたばかりの娘」
「そんなに産んでるの?」
少女は皐月の痩せ細った体を見ながら不思議そうに言った。
「そんなに……?まあ、2人じゃそんなにとは言えないわね」
皐月は少女の顔をチラリと盗み見て様子を窺いながら話したが、少女は顔色ひとつ変えることなく言葉を返してきた。
「さっき3人って言った」
「産むのはとても痛かったけど、とても可愛かったわ。2人共」
「……ふうん」
「2人共、夫によく似て綺麗な子なの。私には全然似てなくて」
「ねえ、もう1人の子は嫌いなの?さっきから、ずっと避けてる」
「そう、そうよ。避けているの。避けて話を進めたわ。
だってあの子のことは、私の人生からも避けたいの」
皐月は少女を招き入れると決心した時から、この誰にも明かせなかった心の内を話そうとしていた。
体内の毒を排出するのと同じく、少女に話を聞いてもらうことで、これから起こりうる罪を軽減させるかのように。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる