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恋の焼け跡④
狂っている
しおりを挟む暴れ出す鼓動に合わせ、全身が小刻みに揺れた。
まさに腰抜けの状態で私は長椅子の上を後ずさる。
「まさかと思うが。今まさにお前は僕から逃げようと躍起になっている。何の為にはるばるやって来たんだい。目的は達成する為にある。ウジ虫のように這い蹲る為にここへ来たわけじゃないだろうに。その点僕は祈る為にここへ来て、そして達成した。お前を見下ろすこともこれで三度目さ」
何かの説法のように、火傷の男はひたすら言葉を並べていく。
何食わぬ顔でつらつらと、息継ぎの間も無く綺麗に言葉を並べる。
「怖いんだろう。そんな目をしている。この僕の顔が、醜くて怖いんだろう。そうだ、いつもそうだ。何故あの男は僕が得るはずだった地位や名誉を両手に乗せて平気な顔をしていられるんだこの僕と同じ顔であんまりじゃないか変だと思わないかどうしてあの男が外にいて僕が中にいてこうして祈りを捧げていてどうしてお前なんかと顔を合わせて時間を作ってああお前僕が怖いと今にも泣き叫びそうな哀れな悲惨な顔をしてこの僕の醜くい顔と大差ないじゃないか、ハハハ愉快痛快だ」
目の色ひとつ変えずに、不気味なほど無表情で火傷の男は嘲笑った。
——狂っている
それに気付くまでに時間はかからなかった。
この男の瞳は光を宿していない。
恐怖を通り越し、もはや視線を男の顔から逸らすことは叶わなかった。
ゆらり、と1本の蝋燭が揺れる。
蝋の汗が流れるドロドロとした音を今にも耳にしそうなほど、静寂が堂内を支配していた。
あまりにも静けさが不気味だった。
マリア像も、無数の蝋燭も、十字架も、祭壇も、男も。
この空間にある全てが不気味で、始終針を刺すような鳥肌は震え上がる。
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