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恋の焼け跡④
火傷の男
しおりを挟む「座りなよ」
「結構です」
「強情だね。座れと言っている」
「けっ……!んんっ」
悲鳴が頭の中で弾けた。
私は男に口を鷲掴みにされてしまった。
火花が散ったように、瞬く間に体中の細胞が叫びを上げる。
恐怖にたじろぐ私を、男は至極詰まらなそうにして見下ろしてきた。
頬や顎がゴリゴリと奇妙な音を上げるのを確かに聞きながら、私は必死に涙を流すまいと目をキツく閉ざした。
それでも恐怖からは逃れられない。
私の頭をよく撫でていた千鶴と全く同じその手は、殴り付けるようにして長椅子に私を押し付けた。
——ダンッ!!
「いっ……」
木製の長椅子に背中から叩き付けられ、体はぐったりと漆黒の天井を仰いだ。
涙で滲む視界に、ゆっくりと天井と同じ色の髪が入ってくる。
蝋燭の灯りが、腐った果実のような斑模様の顔を照らした。
——千鶴
ゆらゆらとオレンジにぼやけるのは、千鶴の綺麗な顔。
切れ長の瞳、高い鼻、少し薄い唇。
だけどその左半分は、直視するのを躊躇うほどの悲惨な焼け痕に侵されていた。
「今、祈っていた。
祈る為にここへ来た」
火傷の男の低く重い声が、鼓膜に圧しかかる。
背中が火傷を負ったように、燃え上がる。
痛い、怖い、痛い、怖い怖い怖い。誰か助けて。
蚊の鳴くような声が、喉元で惨めに消えていく。
「君が世界中の人間から憎まれますように。
……そうずっと祈っていたよ」
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