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恋の焼け跡④

弥生ちゃん

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あれだけ帰りたくなかった家が、今はとても恋しく思う。

今すぐ家に帰って一服したい。
私の頭の中はその煩悩ではち切れそうだ。
だってこの施設での実習ときたら、昼休みも与えてくれないんだもの。いつか河本さんがこう言ったっけ……。

『お疲れ様、ジュースでも飲んで。ここの施設って昼休みも無くて腹立つでしょ?
俺も学生の頃はここで実習したことがあるんだ。その時既に青木さんは主任でね。
たまにぶっ殺しちゃいたい衝動に駆られたよ、ハハハ』

その時覗き見た河本さんの顔は、どこか腹黒い印象だった。

そんな記憶が走馬灯のように何の脈絡も無く流れ込んでくる。
思考回路がショートしそう。というか、ヤニが欲しくて堪らない。

脳内に組み込まれたストレスの度数を表示するメーターは、きっと最大の数値を示しているに違いない。
次から次へと驚きの連続で、もはや頭が現実に着いて行けない状態だ。



「ほら、弥生っ。
この人が千鶴の恋人の澪ちゃんよ!前に話したでしょう?」


この上なく嬉しそうにそう話す藤堂さんは、愛孫を目に入れても痛くない祖母そのものだった。
というか、その通りなのだろう。


「……まあっ!貴女が……!?
噂は聞いておりますわ!」


今私の目の前で大変驚いた顔をしているのは、千鶴によく似た綺麗なお嬢さん。

上品にも口に両手を当てがり目を真ん丸にして、そんな言葉を寄越してきた。
可憐な唇から放たれる言葉のひとつひとつが演劇調で、一言で言えば何もかもがオーバーリアクションである。

要するに私は、この子が絵に描いたような『ですわ』口調のお嬢様であることにショックを受けたのだ。

……こんな人って、本当に存在するのね。『ザマス』口調の教育ママの次に、この世に存在しないと思ってた。




 

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