Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました～

恋の焼け跡③

認知症

目も当てられないこの状況を飲み込むのに少しだけ時間を要したが、次第にこの私でも何となく推測が出来た。

老いはどんな人間にも平等に訪れる未来。

あんなにも綺麗で穏やかだったかつての藤堂さんのおばあちゃんは、もう存在しないのだ。
少なくとも今は、今は……とても苦しそうにもがいていて、必死に見知らぬ人間から逃れようと助けを求めている。

だけど見知らぬ人間ではないのだ。藤堂さんのおばあちゃんはもう２年はここにいて、職員の全員と仲が良かったはずだ。

……かつての彼女はもう存在しない。認知症によって、もう別の人間になっている。

いや、認知症だからって何だと言うの！

私は憤慨した。

ただ周囲のことを忘れているだけだもの！
藤堂さんは藤堂さんだわ！


「土屋さん、見て分かるように藤堂さんの認知症が前よりも酷くなってるんだ。風邪をこじらせて入院したのがきっかけでね……。
それで藤堂さんをなだめられるのって、多分君だけなんだ！お孫さんのように気に入られてたよね！？
お願い、落ち着くまでしばらく側にいてあげて！」


突然の出来事にすっかり固まってしまった私の背中を、河本さんはグイグイと押してきた。

私は藤堂さんが連れ去られた部屋へと向かう。




「いやよー！やめてー！」


すると未だ鳴り止まない叫び声が聞こえてきた。
藤堂さんは化け物に出くわしたような形相で暴れている。

痩せ細った体のどこからそんな力が湧くのか、四方八方に腕を振り回しているのだ。
ついにベッド脇に飾られてあった花瓶を床に投げ付けて、職員に猛攻撃を始めてしまった。