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恋の焼け跡③
置かれている立場
しおりを挟む「そうなの?
そういうことは早く言わなきゃ。
無理したら駄目だよ!」
「……はい、ありがとうございます」
どんなに河本さんに優しい言葉をかけてもらっても、どんなに青木主任に怒鳴られても、何ひとつ私の心には響かなかった。
届かなかった。
あの日、私が空に向かって呟いた言葉のように。
「おねいさーん、おねいさんやー!」
すると突然、後ろから利用者さんの阿部さんに呼ばれた。
俯いていた私はその声に反応すると嘘みたいに機敏になり、すぐに阿部さんの傍に飛んで行った。
『何だかんだ言ってもお年寄りには優しいんだね』
さっきいた場所から河本さんの独り言が聞こえた。
クスクスと笑っている。
そういえば昨日の排泄介助の時に、半人前で未熟で可愛いと言われたっけ。
そんなことをぼんやり考えていたら、阿部さんに腕を噛まれた。
「いっ……!あ、すみません。
阿部さんどうしたんですか?」
阿部さんの総入れ歯に思い切り噛まれた腕が、唾液でてらてらと光った。
「あんね、手ーがね、痛いのよ!」
「そうですか……リウマチですね」
眉を八の字にして私は答えた。
「そうなのよ、痛いのよ!
どうにかしてぇ」
「辛いですね……今カイロを持って来ますから、暖めましょうね」
「うん!」
阿部さんは皺くちゃの顔に満面の笑みを浮かべたので、更に深く皺が刻まれた。
まるで幼子のように無邪気に返事をする彼女を見て、私は罪悪感に胸を痛める。
……何をしているんだろう。
もっと、しっかりしなきゃいけないっていうのに。
そう思うと、やっと自分の置かれている立場を認識出来た。
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