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恋の焼け痕②

最初からいなかったと思えば

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しばらくして、近所の小学校の下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

いや、下校時刻かどうかは分からない。もしかしたら授業開始のチャイムかもしれない。
時刻的には下校なのだろうけど、小学校が何時間授業かなんて当の昔に忘れてしまった。

下校時刻なのか、授業開始なのか。

そんな情報は今の私にはちっとも必要じゃないというのに、頭が勝手にそれを考えようとする。

下校してきた小学生が家に帰り、『今日の夕飯なぁに』と甘えるような口調でキッチンに立つお母さんに聞く。
お母さんは『それよりまず先に手を洗いなさい』と言う。


チャイムが鳴る……。

頭の中をグルグルと旋回する。
変な液体が脳に浸透する。
どっぷりとそれは音を鳴らして、思考をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。

チャイムが鳴り響く。



いつの間にか、私は自宅にいた。

総大くんが隣にいて、ずっと訳の分からないことを話しかけてくる。多分、『大丈夫ッスか』とか『きっとその内連絡があるッスよ』とか、そんな慰めの言葉を送られているに違いない。

だけどそんな言葉が、何の役に立つというのだろう。
私はただ床だけを眺めた。
まるで床に何か面白いことが書かれているかのように、ひたすら床を眺めた。

そうしていると、木目のいたる所に凹凸を発見した。

それは私が幾度となく千鶴を叩き付けた跡だ。


……涙?何だかそれの出し方も忘れてしまった。


総大くんの声が遠くに聞こえる。
もはや何を喋っているのかも理解出来ない。

私はただ床の窪んだ部分を見つめている。
穴が開くほど見つめている。



『藤堂千鶴という人間は、最初からいなかった』



その結論に辿り着くまでに、さほど時間を要さなかったと思う。

この方法は、私が失恋した時にいつも試す。
克哉の時もそうだった。
最初からいなかったら楽だったと、そう考えては悲劇のヒロインを気取って涙を溢した。

だけど、どうしてだろう。
涙が出ない。

干乾びていく。

サラサラと砂が流れる音がする。

チャイムが鳴る。

ゴポゴポと液体が沸騰する。




 
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