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恋の焼け痕②

全部『嘘だ』って言って欲しい

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やっと自宅のドアノブに触れた瞬間、漠然とした安心感に体が緩んでしまった。

慌ててドアを開けると、今1番会いたくてたまらなかった人物が私の体を包んでくれた。



「澪、お帰りなさい。そんなに慌てて、僕は逃げやしませんよ。
寒かったでしょう?」


ぎゅうっと千鶴に抱き締められて、初めて自分が泣いていることに気付いた。


「ど、どうしたのですか!?
僕に会えたのがそんなに嬉しかったのですか!?」


千鶴は笑顔を崩し、見慣れた心配顔で私の涙を拭いた。



「うん……会いたかった」


「……え、今何と」


真っ赤な顔で慌てる千鶴が懐かしくって、私の涙腺は余計に脆くなっていった。



「ね、聞いてくれる?
今ね、白昼夢見ちゃった」


「白昼夢……ですか?
澪、熱ありますか?」


決して馬鹿にされているわけでは無いことが、すぐに分かった。
千鶴は至って真面目に、私の身を心配してくれている。

いつもそうだ。
いつも私を想ってくれている。
私から一時も離れたくないはずだ。


だから――


『でもきっと、あの男は君の下から去って行くよ。
これは予言なんかじゃない。数分後の未来だ。君はあの男を失うし、あの男も君を失う』


――そんなの嘘だ




「ね……、だから、さ。私の言うこと、今から全部『嘘だ』って言って欲しいんだ」


「澪?どうしたんです」



深刻な声が、頭上から降り注ぐ。

私は形振り構わず、とにかく無性に全てを否定して欲しくてたまらなくなった。

そう、こう言って欲しいの。
『お化けなんていないよ、きっと夢でも見たんだよ』
そんな言葉でいい。それだけでいい。

私は千鶴に期待している。
それは、今まで出会ってから期待以上の言葉をたくさんくれたからだ。
今回だって期待してしまう。

でも、千鶴は私の味方だもの。
きっとそう言ってくれるわ。


息をするのを忘れて、無我夢中で千鶴に言葉を投げた。


 
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