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恋の焼け痕
ジャングルジム
しおりを挟むレジ袋の中に隠されている小さな箱が、何故かとびきり重たく感じた。
心臓は相変わらずドラミングを止めず、私の肋骨をせわしなく叩いている。
……やっぱり、止めようか。
これじゃアイツの思うツボだし。
今更になってそんな想いが頭の中を占拠する。
だけど先ほど目に付いたポップの言葉が、すぐにその想いをデリートした。
『あの人に、心を込めて』
『この想い届け!』
込めるものは、何も無い。
届けるものも、何も無い。
あるのは迷いと不安と、そしてそれを認めようとしない、意固地な私自身。
最後の悪あがきの溜め息を吐いた。
ふと見上げると、晴れ渡った青い空。
ついこの間見た、あの海を思い出した。
あの時のアイツの顔が、眼球の奥に蘇る。
悲しそうで、寂しそうで。
海の藻屑になってしまいそうだった。
消えてしまいそうなあの儚い笑顔を、空の青に映した。
それは海の青さと重なって、
さざ波にさらわれていく様を想わせた。
早く、喜んだ顔を見たい。
そうすれば、この得体の知れない想いから解放されるかもしれない。
白い息が、私の口からたくさんこぼれた。
鼻頭が冷たくって、つんとする。
公園の前を過ぎれば、もうすぐアイツが待つ家に着く。
アイツは何て言うだろう。
『嬉しいです』
『ありがとうございます』
『大好きです』
綺麗な顔に柔らかい笑みを浮かべた千鶴を、頭の中に想い描いてみた。
心臓が、フワフワと浮いている。
喉を通って、口から出てしまうかもしれない。
……それでもいいや。
そんなピンク色の妄想をしながら、やっと公園の前まで辿り着いた。
雪に埋もれた遊具をチラリと見て、そういえば以前に総大くんと訪れたなあとぼんやり考えていると、突然、私の心臓は急停止した。
あと少しで会えるというのに、待ち切れなかったらしい。
家にいるはずの千鶴が、雪に色を塗られて真っ白な姿になったジャングルジムのてっぺんに、腰を掛けているではないか。
漆黒の頭髪が、雪景色に浮いている。
その後ろ姿を見て、綺麗だなあと思った。
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