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恋の焼け痕

コンビニへチョコを買いに

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心臓が、肋骨を叩き始めた。
ゴリラのドラミングに思いを馳せて、私はこの心臓を黙らせようと胸部を叩きたい衝動に駆られる。


よし!賭けをしようじゃないか!

今私の指先から数センチ先にある、箱の中の煙草が残り何本か当てられたら、コンビニへ行こう!
これなら外れる可能性が高いわ!

当てる気も無い賭けで自分の行く末を決めるだなんて、自暴自棄もイイとこだ。
しかし、そんな賭けに身を委ねでもしないと決断出来ない私は、迷わずボックスの四角い上蓋に触れた。


――6本


直感的にその数字を頭に浮かべた後、ゆっくりと蓋を開けて箱の中を覗いた。


「……」


真実は時に残酷であり、いつも人々を悲しみに陥れる。

私は無言で重い腰を上げると、財布を手に取り上着を着て玄関へ足を運んだ。


「澪、何処へ行くんですか……!?」


「コンビニでチョコ買って来る」


「ほ、本当ですか!嬉しいです!待ってますからねっ!」


嗚呼、賭けなんてしなければ良かった。

そう後悔するも、少しだけ心の枷が外れた解放感に浸る。

たかが脳内の賭けだなんて、口実にしかすぎなかった。
それは重々承知の上で、私は箱の中の6本の煙草に少しだけ感謝したのだった。



「いらっしゃいませこんにちはー」


やる気の無い店員の機械的な挨拶を耳に宿しながら、私はハートだらけの売場に直行する。

『あの人に、心を込めて』
『この想い届け!』

思わず体が痒くなるような言葉が、ビッシリとワゴンの上に羅列されている。

極寒の中を急いで走ってきた為に、私の手先は真っ赤になっていた。
それかあまりの羞恥の為に真っ赤になったのかは分かりかねるが。

とりあえず、アイツが着ていた濃紺のスーツと同じ色の箱を選んだ。

偶然にもその箱は、ピンクのリボンに包まれていた。
私の脳内をヤツで満たすのには十分過ぎる。


早く会計を済ませようと、焦って小銭を数えた。

店員がレシートを差し出す前に品物を手に取って、私は早急にコンビニから立ち去った。

 


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