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恋の焼け痕

嫌です!チョコをくれるまで帰りません!

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「いい加減、帰ってくれませんかねー?」


すっかり疲労し切った私はプカプカと煙草の煙を浮かべて、傍らに居る人物に投げやりに言った。

千鶴は踏ん反り返った態度でフローリングの上に正座をしている。

頑なというか、往生際が悪いというか。
いい大人の所業とは到底思えない。


「嫌です!チョコをくれるまで帰りません!」


朝からこの台詞を、もう数百回は聞いている。
結局、今日は学校をサボッてしまったではないか。

だって、いつまで経っても出て行かない変態の代わりに私が家を出ようとしたら、
『貴女の御両親の命は預かっています』だの『このマンションに爆弾を仕掛けました』だの脅されたんだもの。

いずれも大嘘だと当然思ったけど、この男は自分の身体をリボンでグルグル巻きにしたり、人のパンツを吸引したり、そんなことを平気でやる人間だ。

そんな脅迫をずっと聞いていたら本当に実行するんじゃないかと思い始めて、正午を回ったくらいの頃に私は観念したのだった。


――カチコチ


正確に刻む時計の音でさえ煩わしい。

この、地球上で最も『ウザイ』という言葉がふさわしい男を隣に携えて、ついに私は口で煙の輪っかを作り始めた。

その輪っかが、ふにゃりとだらしなく消えそうになった時、急に我に返った。

そう。この堂々巡りが、ごく単純な行動によって終止符を打つことに気付いてしまったのだ。


――『チョコを渡せばイイんじゃん』


この答えが見付かるまで5時間もかかった私は、世界一の大馬鹿者である。
ギネスに載っちゃうかも、なんて笑いすら込み上がる。

しかし、それを実行しようと少しでも思えば、心臓が絞られたようにズキズキするのだ。
『そんな恥ずかしい真似出来るかぁー!!』と、窓の外に向かって叫びたい気持ちになる。
胸が張り裂けそうだ。

奥歯を擦り切れるまで噛み締めて、少しだけ視線を隣にやれば、私を見つめ続けている千鶴と自然に目が合う。

どうする?
ちょっくらコンビニまで歩いて、綺麗に陳列されているであろうチョコの箱を手に取るか?
ついに、やってしまうのか?

私が最もやりたくないことベスト10に入る行動を、今まさにしてしまうのか?
製菓会社の陰謀と分かっていながらも、それでも胸の鼓動を抑えられない女子達の1人になってしまうのか?


グルグルと脳内の螺旋階段を全力疾走する私に、決断の時が迫っていた。

 

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