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恋の焼け痕

藤堂千鶴のマジックショー

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すると、本当にブチ切れてしまったのか、何かが刃物によって切られる音が背後からした。

千鶴はどこから取り出したのか、ハサミを手に持ち、自らを包んでいたリボンをジャキジャキと切り始めた。

そして、ヒラヒラと舞うようにショッキングピンクの細切れがフローリングの床に落ちていくと、ガッカリと言わんばかりの落胆した表情で私を見つめてきた。


「分かってはいるんです、でもどうしても待ち切れません。
貴女のポケットに隠されている甘い香りを」


「……だから、隠してないから」


香るのは、オマエの胡散臭さだけだ。

畜生、と悪態を付きながら煙草の箱を探し始めると、千鶴も自分のポケットの中から何かを探すようにゴソゴソとし始めた。


——ドサドサドサッ


今日は驚くことばかりだわ。

千鶴のポケットの許容量を、遥かに超える量のプレゼントの山が、魔法のように姿を現したのだ。

1、2、3、4、5……
その十倍ほど。

一体、いつ四次元ポケットが発明されたというのかしら。


「何、は?」


マヌケな音を発して、私はただただその有り得ない光景を眺める。


「貴女への贈り物です。
少なかったでしょうか?」


「少ない?それって、アンタの体の体積よりもあるプレゼントの山のこと?」


だから私の視神経は今朝からおかしくなったと、自分で確かめたじゃないか。

色とりどりの箱は、どれもリボンで丁寧に包まれていて。
まるで気分はクリスマスだ。

我が家のリビングは、数え切れないほどのプレゼントで埋め尽されてしまった。
これは安いマンションの一室で見られる光景では無い。
どっかのセレブのパーティ会場に、迷い込んだみたいだ。


「全て、澪に捧げます」


「……え、あ、どうも……」


この状況下だ。思わずお礼を言ってしまった。
『いらない』だなんて言えなかった。これも魔法かしら?


「今までは、僕が貴女に貰ってばかりでした。
いずれも、金では買えない尊い物ですが……」


「は、はぁ」

 

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