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恋の焼け痕

聖なる日

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直線の境界線が存在するかのごとく、私が吸っていたタール6ミリの煙草の左側面は、全て灰になって落ちた。
右側面は綺麗な白のままだ。

結局それはペンシルのようにとがり、何だか訳の分からない代物に変わり果てた。


「はぁ」


短く細い溜め息を溢す。
全くもって、訳が分からない。

汗だくの頭部を指で掻いて、シャワーを浴び直そうと考えたら少しだけ落ち着いた。
その前に、もう少しだけ煙草を吸いたかった。

そう思い煙草の箱に指を突っ込ませたが、カサカサと空っぽの音がした。
その音にどうしようもない虚無感が湧き起こる。

他に買い置きも無いので、仕方なくシケモクで我慢することにした。
灰皿に残っているものは、先ほど役目を終えた、左側面だけがパックリ削れた煙草が1本。

私はゆっくりと右側面だけのシケモクに火を点け直す。

一瞬、パリッと火花が散った。

右側面だけのシケモクは、ゆらゆらと不安定な煙を立ち上げて、
そして1分と待たずに全て灰になった。

灰皿の上には、右と左の煙草の灰が残る。

何だか2本分吸ったような気持ちになったけど、でもこの右と左は、元々1本の煙草だったのだ。


その時、暗闇に慣れてきた目が、壁に掛けてあったカレンダーを捉えた。

2月14日。どこぞの外国人の名前が付いた日だ。
頭に『聖なる』なんて付いた、とてもシャレた日。


「はぁぁ~……」


一体誰が、この日を浮付いた恋人達のイベントに仕立て上げたっていうのよ。

 

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