Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました～

恋の焼け痕

真っ二つ

その日の夜は、真夏の寝苦しい夜にとても似ていた。


全身に滝のような汗を帯びた私は、小刻みに呼吸をするとベッドから飛び起きた。

眠りに落ちて安らかだったはずの心音が、酷く乱雑に鳴り響く。
バクンバクンと激しく血液を送り込むそれが、全く別の生き物のように思えた。

額から吹き出した汗を拭うと、自分の熱気にこもった寝室を出てリビングに向かった。



どうしたものか。
最近、殊更に夢見が悪い。
鮮明な映像が頭に送られる日が続いたのだ。

覚えの無い、全く覚えの無い夢。

知らない人ばかり出てくる。そして、決まってそこは病院ときた。
頭がイカれたとしか考えられない。
セラピーでも受けようかしら、なんて本気で悩んだくらいだ。


相変わらず鳴り止まない心臓をぶら下げて、真っ暗なリビングの中、ほとんど手探りでテーブルの上の煙草を探す。

真っ白な筒を安いライターで焙り、慌てて煙を吸い込んだ。

喫煙なんて気休めにしかならないけれど、
少しでも安楽を得たかった。
少しでも恐怖から逃れたかった。


火の点け方が悪かったのか、筒の側面から焼けている。
煙草の左側からだけ、煙がボロボロと漏れていく。

私はその様をぼうっと見つめながら朦朧とする頭の片隅で、
『右側がもったいない』
だなんて意味の無いことを考えた。

疲労し切った精神状態のせいだろうか、無駄な思考が働いてしまう。
こんな稀なことって無いわ。

だって、煙草が、左右真っ二つになったんだもの。