Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました～

恋はさざ波に似て③

ちゅー

「……あ」


ブヨブヨに熟した果肉が当たったような、柔らかな感触。
不意打ちにも程がある。

南条セイヤは悪戯っぽくニヤリと微笑んで、踵を返した。


「じゃーねー！」


……『じゃーねー！』じゃねえよ！！ああ！！頬にキスされた！！頬が宇宙人の餌食に！！

私は未だに生温かい余韻が残る頬を、ゴシゴシと手で拭った。
その横には、絶望に打ちひしがれた男が１人。


「あの糞×××！！
……僕の、僕の、僕の、澪の、
林檎のほっぺを……
あアあ嗚呼あぁああ亜ー！！！」


頼むから海でそんな下品な台詞を叫ばないでくれ。
あとついでに、錯乱するなよ。
私がしたいわ。

千鶴は頭を掻きむしり、この世のモノとは思えない発狂をした。
端から見れば狂った人にしか見えないだろう、嗚呼。


「うわー、面倒くせー……だから嫌なのに。あのブリッコオヤジ、ワザとやったわね」


「酷いです！あんまりです！
僕のことをダーリンだなんて呼んで下さるから、良い人だと思ったのに！こんな仕打ちって無いです！
ああ、もう何も信じられません！！」


夫の突然死に泣き崩れる未亡人のようだ。
すっかり悲劇のヒロインぶった千鶴は、太陽に涙をキラキラ反射させた後、そのまま倒れるようにして雪に頭を打ち突け始めた。

ダメだ……絶対、ヤバイ人に見られちゃうわ。って、元からヤバイ人だけど。

というか南条セイヤに突然愛想良く振る舞ったのは、『ダーリン』と呼ばれて気を良くした為だったのか。