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恋はさざ波に似て③
誰がダーリンだ
しおりを挟む――パシャパシャ
白いニット帽を深被りし、小さな顔をすっぽり埋め尽くす大きなサングラスをかけた南条セイヤが、小走りで私達の元へ寄って来た。
「良かった~!まだ居たんだね!
僕、君のこと旅館中探し回っちゃった。目を覚ましたらどこにも居ないからさ、心配しちゃってぇ」
「ああ、ゴメン。
何か、目ぇ覚めたら自分の部屋に戻ってた」
ん?今、気付いたんだけど。
私、どうやって向日葵の間から桜の間まで移動したのかしら。
きっと酔っ払っていて意識は無いから、自力で戻れないだろうし、そうで無くとも方向音痴だし。
「僕が澪を連れ戻したんですよ。
あんな危険な場所で無防備な寝顔を晒して……僕が戻ってその光景を見た時には、血の気が引きましたよ全く。
……ああ。その胡散臭い格好、いかにも有名人ですと言いながら歩き回る広告塔の様で、大変素敵ですよ。南条司さん」
「はぁ?そうじゃないかと薄々思ってたけど、アンタが私を桜の間まで運んだワケ?
ちょっと!人が寝ている間に変なコトしてないでしょーね!?」
真後ろで不機嫌そうにしている変態の腹に、軽い肘鉄を打ち込む。
「えぇえ~!?
ミオちゃんたら、2人の秘密バラしたでしょ~!
南条司は秘密だってば、も~。
しょーがない子だねぇ。
……まぁ、ダーリンには包み隠さず何でも言っちゃうお年頃だもんね。仕方無いかぁ」
「誰がダーリンだ」
私は南条セイヤの黒いサングラスを無理矢理剥がし取り、露になった真ん丸の目を見て怒鳴り付けた。
「おやおや、澪。人の物をそんな風に乱暴に扱ってはいけませんよ」
突然態度を180度変えた千鶴は、私の手からサングラスを取り上げた。
「南条さん、僕の家内が失礼致しました。どうかこの愛くるしさに免じて、許して下さい」
は、はぁ?
この馬鹿ときたら、私の肩に腕を回して、まるで旦那様気取りだ。
というか、この礼儀正しい態度は一体、何の企み?
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