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恋はさざ波に似て③
『千鶴』
しおりを挟むああ、何ということだ。
この人は、
私の想像を遥かに超えた所で苦しんでいたのだ。
アンタの過去に何があったの?
私は何も知らない。
だけど千鶴は、私をよく知っている。
私を、こんなに想ってくれていた。
言えない。言えないよ……。
『いなくなって欲しい』
だなんて、もう言えない。
そんなの、今の千鶴に言ったら
……本当にいなくなってしまいそう。
いや、消えてしまいそう。
どうして?
どうして、私がアンタをそこまで癒せるの?
何を変えたっていうの?
ありがとうだなんて、言われるようなこと……してない。
……覚えてないよ。
ただ、分かることと言えば。
海が流れに身を委ねる存在では無く、渇いた砂の形を変える存在だってことだ。
けど、それが私だっていうの?
「だったら、私……
千鶴は私が……必要?
私のこと、必要なの?」
思いつめた、
張り裂けそうな胸を引き締めて、
波にすくわれそうな足を踏み締めて、
震える手を握り締めて、
私は言う。
『いなくなって欲しい』
という虚しい言葉では無く、
本音を、言うの。
聞きたいの。私は必要?
私はどう見える?
私はここに居てもいいの?
私は好きに生きてもいいの?
私は……私は、千鶴のことを
どう想っているの?
「千鶴は……私が、好き……?
好き、なの……っ?」
「み……お、え……ええ?」
「そんなに取り乱さないでよ!
こっちが照れるじゃん!バカ!」
見事な赤面。
千鶴は耳まで真っ赤に染めて、
両手に持っていたバッグを、地面にぼとりと落とした。
切れ長の涼しげな目は真ん丸に開かれて、口は魚のようにパクパクしている。
照れと驚きが混じって、パニック寸前の顔をしているのだ。
ここまでくると、まるで別人。
「だ、だって、澪が……
澪が、僕の、名前……
呼んで、くれました……っ」
「バッ……そりゃ、呼ぶわよ!
呼んだら駄目だって言うの!?」
私は私で毛を逆立て、しどろもどろに叫ぶ。
蒸気機関車みたいだ。
頭から湯気が出ているかもしれない。嗚呼。
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