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恋はさざ波に似て③

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「僕は、ずっと思っていました。
……自分が砂だと。
原型を止めず、干乾びていて、
まるで砂浜が自分そのものに見えて仕方ありませんでした。
でも……今日、海を見て改めて思いました。
砂でも、水分を含ませれば随分と見易くなるものですね」



「は?」



「砂って海に触れると、形を変えて柔らかくなるんですよね。
意味……分かりますか」



「……」



「貴女が思っているよりずっと、僕は自分に自信が無いのです。
醜くて、汚れていて、渇いている……僕は他人が嫌いですが、それ以上に自信自身が嫌いなんです。
吐き気を催す程の嫌悪すら感じます。

……心に、穴が開いているんですよ。
育った環境も、あまり良いものではありませんでしたが、それ以前
に……生まれながらに感情が、
欠落しているんです。

その内、この美しい海辺を想う穏やかな感情も、やがて蒸発していくでしょう。
音も、景色も、心も、自分さえも、全てが風化して消えていく。
全てが僕の中で消えていく。
僕の中には渇いた砂漠しか残らない。
とても、空しい人生ですよね。
それを寂しいとも思えないだなんて……。


だけど、貴女は……
澪は、澪だけは、そんな僕を癒してくれるのです。
……海は、渇きに飢えた砂に触れていく。
触れては、引いて。
それでもまた触れて。
それは終わる事が無く、渇く暇も与えてもらえない。

澪は、僕に取って海の様な存在なんです。
無くてはならない大切な人です。

渇き切った穴を、貴女が埋めてくれる。
生きる事がこんなに愛おしい事だなんて、知りませんでした……。
知らなかった……。
僕を、変えてくれて、ありがとう」




逆光が、千鶴の顔を暗く照らす。

千鶴の瞳は、黒々としている。

泣いているの?涙は出ていない。でもきっと、泣いている。

心が、泣き叫んでいる。

私の知らない千鶴が、泣いているのだ。

とても懐かしい顔で、泣いている。

いつもは笑っている顔ばかり。

私の知らない千鶴。


 
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