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恋はさざ波に似て③

流れに身を委ねる

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「この海を見ながら、ずっと考えていたのですが」


陽の光に目をそむけた千鶴が、唐突にそんなことを言ってきた。

私は何故か居たたまれなくなり、地面の雪をグリグリと足ですり潰した。



「砂浜と海は、
まるで僕と澪のようです」



「……何を言うかと思ったら。
何なの、ソレ」



ピタリと足の動きを止め、しばし静止してしまった。

千鶴が、あまりにも満ち足りた顔でそんなことを言ってきたので、正直困惑を隠せなかったのだ。


千鶴と私みたい?砂浜と海が?

一体、どんな例えなのだろうか。


「どっちが砂浜で、どっちが海よ」


どうしようもなく気になったので、そう聞いてみた。



「ええと………僕が砂浜で、
澪が海なんですよ」



少しだけ照れ臭そうな、ぎこちない仕草で千鶴は言う。
その様が、小学生の男の子のように幼く見えた。



『延々と、終わること無く繰り返される。
流れて、流されて、それでも泳ごうとしない。
流れに身を委ねて、どこかへ辿り着くのを待っている』



先ほど頭に巡った、自分への例えを思い出した。

正直なところ、アンタには海に例えられたくなかった。
私がそう見えるって言うんでしょ。とても惨めだって。

ふわふわと漂う、海みたいだって。



『他人に流されるまま流されて、自分の意見も言えないような人間には』



昨夜の、南条セイヤの言葉が脳内を駆ける。

胃が消化不良を起こす。
ドロドロと、波打つ。
心臓が奇妙に揺らめく。


ああ、あの歌が、聞こえる。




『愛するあの人は もういない

取り残された僕


波にさらわれて

泡となって

霧となって

いずれ消えていくだろう



あの日 君が話してくれた
人魚のように』




背中が、酷く痛い。
燃えているようだ。
何なの?

しかし、私が謎の痛みに集中する間も与えずに、千鶴が先ほどの答えを出してきた。

それは私が思っていたモノとは、まるで違った。


 
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