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恋はさざ波に似て③

言いたい事

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「人のシャンプー勝手に使わないで」


あまりのドン引きに、つい棒読みになってしまった。


「いいえ?シャンプーどころか、トリートメント、コンディショナー、洗顔フォーム、ボディソープ、全て澪の家の脱衣所の戸棚から拝借した代物ですよ」


人様の家の物を許可無く拝借する愚か者のコトを、人は泥棒と呼ぶ。もしくは度の過ぎたストーカー。もしくは藤堂千鶴。


「……」


気持ちが悪くて言葉も出ないわ。

私は頬を染め上げてルンルンと鼻歌を歌う千鶴を放置し、部屋に戻ることにした。

やってられない。


「みおー!!
置いて行かないで下さーい!!」


私の匂いを撒き散らしながら、優雅に駆けて来やがった。

ていうか今更気付いたけど、オマエは着替えもスーツかよ。
どこまでビジネスライクなんだ。

せっかく激しい頭痛が治まったと言うのに、何故こうも、追い討ちをかけるような真似をするんだオマエは。

心底うんざりした私は無言で部屋に戻り、帰り支度を黙々と始めた。








『私に構わないで』……かぁ。

やっぱり、コイツにそう言ったところで今までと何も変わらない気がする。


鬱蒼とする頭の中で、懸命に考える。
あまりにも考え込みすぎた私は、
衣類を畳まずに無理矢理ボストンバッグの中に詰め込んでしまったので、バッグが行きよりパンパンに膨れ上がった。
ファスナーが悲鳴を上げているように思える。

その悲惨な姿になったバッグを眺めていると、溜め息が深くなる。

更に思考回路が複雑に絡んでいく。




いなくなって欲しい……?


ああ、そうよ。

だってコイツは、私に取って何の価値があるって言うのよ。

コイツが私の前に現れてから眉間の皺が増えたし、溜め息の回数も著しく増えた。

……いや、それはコイツが現れる前からそうか。


克哉と別れてから、私の心は宙吊りになったままだ。

ただ……
そう、怒鳴る回数が増えただけ。
以前はこんなに、思ったことを大声で口にすることは無かったはずだ。

こんなに正直に、『嫌』だと否定することも無かった。

克哉には怒鳴ったことも、嫌だとも言ったことが無い。
本当に言いたいことを喉の奥にしまい込んで、そのまま飲み込んで、消化不良を起こしていた毎日だった。 
 
 

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