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恋はさざ波に似て②
ほんとの年齢
しおりを挟む「……離れてるよー。
だって僕、ホントは34歳だもの」
「……はぁ?」
ご冗談を。
どこまでからかうつもりよ。
「ホントだよー。
もうオジサンなんだ。
でもさ……もうそろそろ、
色んなことを偽ることに疲れちゃった」
「それって……マジで、あのー、本当なの?」
にわかには信じ難い真実を、
突然に突き付けられても困る。
だって私とこの人は、今日、たまたま、会ったばかりだというのに。
年齢詐称だなんて、そんなワイドショーネタを暴露されても困るだけだ。
「だから言ったデショ。
ホントーだってば」
「は、はぁ」
「ああ、信じてない?
ま、そりゃそーだよねぇ。
だって、君ときたらライヴの時も他の子と違って僕を見下していたものね」
「……な」
何でそれを?
そんな台詞が喉の奥でつっかえた。
薬を水無しで無理矢理流し込んだみたいだ。
後ろめたさと、恐怖が、一気に
私の体中に凍り付いたのだ。
「僕って意外と、観察力あるんだ。みんなのこと観てるよ。
ステージの上からたくさんの人間を、観てる。
だけど、それってどんな気分だと思う?あのね、それってとっても最悪な気分なんだ。
君は知らないよね。
他人に流されるまま流されて、
自分の意見も言えないような人間には知らないことだよ。
僕がそんな気分でステージに立っているだなんて、誰も……
知りやしないんだから」
「……」
何ということだ。
これが演技だとしたら、
私はイイ暇潰しの相手だが。
だけど、これが真実だとしたら、とんでもないことかもしれない。
週刊誌が賑わうネタだろうに。
『南条セイヤの裏の顔』、なんて見出しが目に浮かんだ。
私のすぐ隣で肩を落としている芸能人は、すっかり自虐的な雰囲気に包まれている。
満天の星を眺めているというのに、まるで戦場を傍観としているようだった。
「もう、疲れた。
常に笑顔でいろって言う事務所にも、指紋が無くなるまで揉み手するマネージャーにも、
気味の悪い奇声を発しながら僕を呼ぶ女共にも、
そんなヤツらを化けの皮の下から嘲笑う自分にも……疲れた。
僕は、疲れたんだ。誰かそっとしといてよ。もう嫌だ。
この名前に凌駕されてる自分がもう嫌だ。何もかも、もう……っ」
――ゴンッ
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私は、あまりの情けなさに拳を止めることが出来なかったのだ。
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