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恋はさざ波に似て②
こんな男
しおりを挟む「……そんなコトにもなりませんからね」
呆れた。
でも、こういったセクハラ発言から身をかわす術なら、
いくらでも知っている。
まあ、このアイドル様からしたらつまみの足しにもならない冗談だろうけどね。
「ふぁ~あ。
それにしても、よく寝たなぁ」
「……」
すっかりテンションというモノを胃の底に沈めた私は、黙り込みを決めた。
南条セイヤは欠伸をした後、
ひょろひょろと私の体を跨ぎ、
見晴らしの良いベランダの方へと行ってしまった。
「ねぇ、君もこっちに来なよ。
絶景だよコレ」
誰がほいほい言うことを聞くもんですか。
私はアンタを取り巻く安っぽい女共とは違うんだから。
「……そうやって強情を張ってさ、なーんかヤラシイことでも考えてるんじゃない?
何にも無いなら、堂々としてなよ」
むっかぁ。何よ、その、人を奈落の底まで見下したような目は!
腹が立つ男だわ。
煮え立った腹を抱えると、
私はあからさまに不機嫌な表情を顔に張り付けて、ドスドスと足を鳴らしてヤツの隣まで歩いた。
「そーそ。
年上のオニイサンの言うことは、素直に聞いた方がカワイイんだよー」
「大した年も変わらないのに、
偉そうに言わないで」
敬語も止めた。
浮付いた、ちゃらんぽらんなコイツに、わざわざ疲れる敬語なんか使ってられるか。
ムスッと顔をしかめて私がそう言えば、
南条セイヤは窓ガラスに小さな顔をペッタリ張り付けた状態で、
ポカンとし始めた。
その後、その表情がゆるやかに気だるさを浮かべたのを、
私はしっかりと見てしまったのだ。
とてもじゃないけど、ファンの子には見せられない。
きっとガッカリするんじゃないかな。
だって、今の彼の顔ときたら……
とても残酷に口の端を吊り上げて、眼下に映る星空に火を放ちそうな極悪面なのだから。
その氷のような横顔を見つめていると、あの『さざ波メランコリー』がどこからともなく聞こえてきた気がしたのだ。
沈黙の中で、痛く響いてくる。
私の、頭の中で。
けれど今は、
その歌が幻聴だったように思える。
あの切ない歌を、こんな男が歌うはずが無いのだと。
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