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恋はさざ波に似て②
その下劣な男が南条セイヤとやらですか。
しおりを挟む「な、なによ……っ」
「……」
千鶴は何とも言えない、じっとりとした恨めしそうな目で、わずか2cmほどの隙間から私に視線を送り続けている。
どうしよう、化け物には何語なら通じるのかしら?と頭の中で協議をしながら、すぐ傍らで寝息を立てている南条セイヤに、行き場の無い視線を何故か向けてしまった。
「……その下劣な男が南条セイヤとやらですか」
「ひ!」
ギラリと怪しく光った千鶴の目に恐怖を覚えた。
それは人肉を喰らった後の、もののけの眼さながらである。
突然の悪寒にたじろぎ、南条セイヤをくるんでいた毛布を掴んでしまった。
「……フッ。
そんな大した事の無い男が世間を賑わせているらしいですね。
世も末ですよ、全く」
スパーン!と華麗に襖を開ければ、いつにも増して美麗オーラを放出した千鶴がこちらに歩を進め、あからさまな嫌味を含んだ台詞を並べ始めた。
確実にいつもより色気を全開に出している。
目の前にいる男が芸能人だからといって、対抗でもしているつもりだろうかこの馬鹿は。
ていうか、仮にオマエが日本一の男前であろうとも、首が右に曲がったままじゃあ永遠に南条セイヤには勝てないぞ?
何せこっちは、サービスショットよろしく!生足放り投げてパンツ見えそうなんだから。
「ちょっと、人様の部屋で奇行に走らないでよ?」
ついに南条セイヤを覆い隠していた毛布を、ズルズルと自分の元に寄せてしまった。
何だか自分の火照った体を隠さずにはいられなかったからだ。
酔ってるし、酒臭いし……って、コイツの前でそんなこと気にする必要も無いのだけれど。
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