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恋はさざ波に似て②

南条セイヤ

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「あっれー?女の子がいるぅー」



な、なんとまぁ。
全力疾走しすぎて頭がイカレたらしい。
それとも本当に夢の中なのだろうか?

そうやって何度も何度も自分を疑った。

だって、だって……!
奇妙なことに、数時間前には
ステージの上で歌っていた


南条セイヤが
目の前にいるんだもの……!



「ソーダイ、駄目じゃん。
女の子さらってきちゃ」


『め!』
幼げな叱責をその後に付け足した南条セイヤ。

私の真後ろに控えた総大くんも、慣れ親しんだ感じの口調で彼に返事をする。


「いやいや、知り合いですよ~。
南条さんこそ、襲っちゃ駄目ッスよ?オレの彼女のお姐さんなんスから」


いや、今絶対
『お姉さん』じゃなくて
『お姐さん』って言ったでしょ、総大くん。

……んなコトどーでもいい。

私の関心は、目の前の気取った男ただ一点に注がれた。


別にファンでも何でも無いケド、生の芸能人に直面しているという現実に戸惑っているのだ。



「ふ~ん。そなんだ。
ようこそっ、僕の部屋に」


――ニッコリ


う、うわ!無駄に眩しい笑顔!!
目が潰れるっつーの!!
これが芸能人のオーラなの!?

私は思わず引きつった笑みを浮かべて会釈をする。


「お、お邪魔します……」


「んー……と。
昼間、僕を見に来てた子?」


「は……?」


「え!アネゴ、もしかして南条さんの例のライヴ行ったんスか?」


「え、あ、は……い」


私がまともな言語を発せないまま、話は他の2人によってどんどん進められていく。


「やっぱりー!あ~あ、お忍びの意味無いよねぇ~。
僕、宣伝しちゃったもん。
三ツ星旅館のことっ」


「駄目じゃないッスかぁ、
確信犯でしょう?」


「アハ、そーとも言う~」


なんだ~?この、頭に花咲かせたようなキャラは~……
テレビと一緒じゃん~……

何故か顔に熱を帯びた私は、
どうにか南条セイヤと目を合わせないようにした。
 
 
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