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恋はさざ波に似て②

襖の向こうから現れたのは…

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昼間に見た、剥製の熊が薄暗い廊下で不気味に映る。

私は悠然と歩き続ける総大くんに、ぴったりと張り付きながら歩を進めた。


「あ、一応言っときますケド。
アイツ……バンドのメンバーですが、ナリは極悪だけど心根は優しいヤツなんで安心して下さい。
見かけに寄らず紳士なんで」


「は、はぁ」


「何かあったらオレが守りますから、なーんつって」


自信無さげに1人ツッコミをすると余計に空しいだなんて、きっとこの人は気付いていないのだろう。


「そ、そーですか」


「アハハ、そんな怯えないで下さいよ!」


いや、この薄暗い廊下に怯えてるんだけどね……。

そこらの男なんか、あの変態に比べたら恐るに足らずよ。


「あ……、でも、あの人は分からないな~。
酔ったらどうなるんスかねぇ……。ま、大丈夫じゃないッスか?
オレもいることだし」


あの~、独り言は結構ですけど。
本当にアナタ、誰かを守れるんでしょうか。

千鶴に怯えてガタガタと体を揺らす総大くんを思い出しながら、私は誰に言うでもなくそう呟いてみた。


「着きやした~!さ、どうぞ」


「どうも……」


すっかりテンションガタ落ちの私の背中を押して、総大くんはいつもより陽気に言った。


ん……?『向日葵の間』かぁ。
やっぱ花の名前だ。

表札を発見してそんな下らないことを脳裏によぎらせた途端、突然襖が大きな音を鳴らして開いた。


――スパーン!


思いっ切り横に殴り付けたような、豪快な音が鼓膜に突き刺さる。

薄暗い廊下に部屋の中の明かりが差し込み、反応が追いつかない瞳がチカチカと星を散りばめて。

ついでに、この容量の少ない脳みそも、星を飛ばすことになる。


思いもしなかった驚きに、星が、飛んだ。


星……。それは夜空に瞬く光。

三ツ星旅館の由来も、それと同じらしい。


星夜……、確か誰かがそんなことを昼間のライヴで言っていた。



「な、な……っ」



襖を豪快に開けた人物は、目と鼻の先の私に向かって大きな声を発した。


甘ったるいようで、どこか気だるさを持ち合わせた、声。
 
 
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