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恋はさざ波に似て②

どうしてココに!?

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「あ、すんませ~ん……って、アネゴ!!
どうしてココにいるんスか!?」


いや、待て。待て待て。
それはこっちが聞きたいよ。

顔を上げればどこかで見たような、ひょろ長い男が目に飛び込んだ。
まさかその人物が、自分の知人とは思いもせず。



「そ、そーだいくん!!
ちょ、あの……何で?」


未だに火照った顔でマヌケな質問を返す。


「いや、こっちが聞きたいッスよ~。ビックリしたぁ~。
全く、心臓に悪いなーアネゴは」


何だその、人を化け物扱いした物言いは。

というか、考えていることは同じようね。

お互いが『どうしてココに?』と、疑問符を頭の上に浮かべながら目を丸くする。

これじゃラチが明かないので、私から説明することにした。


「あ~……学校の、ゼミの旅行で。来てんの。うん」


アハハ、これ以上説明したくないわ。


「へー。旅行かぁ、いいッスね。こっちなんか仕事で」


総大くんは浴衣の裾を巻くって、ダメージヘアをボリボリ掻きむしりながら面倒臭そうに話した。

一方の私は、身長が高過ぎてつんつるてんになった総大くんの浴衣姿に、笑いを堪えるのに必死。


「ぷ……。あ、そ、それで?
仕事何してるんだっけ」


「……アネゴ、オレが浴衣似合わないって言いたいんでしょ。
分かってる、分かってるッス。
本人が一番分かってるんスから」


総大くんは、相も変わらず長く鬱蒼とした前髪の奥で、自虐的に笑った。


「ごめんて!
浴衣なんてイキじゃん!どっかの誰かなんてスー……っ」


『スーツのまんまだよ』
と言いそうになった憎い口を、無理矢理塞ぐ。

無意識に千鶴の話題を持ちかけるだなんて、癪だわ。

それに、アイツが来ていることを総大くんに知らせたら、どんな酷い有り様になるか……。

 
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