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恋はさざ波に似て②
熱さの理由
しおりを挟む拝啓、父さん母さん。
今日はゼミ旅行で三ツ星旅館に来ています。
母さんと凪の大好きな南条セイヤのライヴまで楽しんじゃって、旅館の廊下を全力疾走するくらい興奮しちゃってるよ!
だからご心配なさらずに
敬具
「ハァッ、ハァッ……もー、無理。走れない」
息絶え絶えに、両膝を抱えて薄暗い廊下の真ん中で立ち止まってしまった。
走り過ぎて気分が高揚してきた。
これってエンドルフィン?
アハハ、脳内麻薬で身も心もハッピー!
……になれたら、どれだけイイか。
肩で呼吸し、喉の渇きに痛みさえ覚える始末。
何ゆえ私がランナーズハイなんか味わなきゃならんのだ。
ゼエゼエと擦れた息遣いを漏らしながら、旅館の中を当ても無くさ迷ってしまった。まるで夢遊病。
まあ、あれが夢なら、こんな必死に走らずに済んだんだけどね。
アイツの存在自体が夢ならなおのこと良い。
……思わず逃げてきた。
数分前の出来事を反芻しないように、首が千切れるまで左右にブンブン振り回す。
頭のてっぺんから、首まで……。
いや、全身が熱い。
千鶴の顔が、ムカつくほど綺麗な顔が、鼻をかすめる距離にあった。
その先の行為を勝手に予測してしまう、この腐った思考に腹が立つ。
「違うっつーの……久々に全力疾走したから、熱いんだ……ばか」
木製の床が、私の重みでキシッと鳴る。
千鶴に抱き締められた時の、私の背骨みたいに。
――重症だ
頭を抱えながら、フラフラと廊下を徘徊していると肩に何かが当たった。
――ドン
まさしく前方不注意。
他の宿泊客にぶつかったようだ、情けない。
「ごめんなさ……い、あ、あーっ!!」
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