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恋はさざ波に似て
ゼミ旅行
しおりを挟む「土屋さん……?
土屋さぁーんっ!
着いたってば!!」
「……ん~、凪うるさ……い、
えっ?」
「もー、先行っちゃうよ~」
長い夢から目を覚ませば、自分の重たい体がベッドの上に無いことに気付く。
不審に思った私は、目が眩むほどの真っ青なシートから上半身を起こした。
目の前には機嫌を悪くしたクラスメートが6人ほど。
おまけに苦笑いを浮かべた先生までいる。
……ああ、思い出した。
私、ゼミの旅行に来てるんだった。
「凪って、幼児科の?」
「うん。姉妹じゃん?双子の。
知らないけど。」
「あぁ~そういや、いたっけ」
みるみる内に血液が頭のてっぺんまで昇った。
赤い顔を誤魔化しながら髪を撫でつけ、慌ててシートから身を乗り出したもんだから、自分のボストンバッグが前の席まで吹っ飛んだ。
「ご、ごめん!もう着いたんだ!?今何時!?」
「もう2時ですぅ。
あと1時間ちょいで始まっちゃうんですけどー」
え~……ちょっと、そんな口の端吊り上げながら言われても。
もっと早くに起こしてくれたら良かったのに。
「あ、言っとくけど目的地の前の駅で起こしたかんね?」
「寝惚けて妹の名前呼ぶとか……うけるね、土屋さん」
「あ、そ、そーだったんだ……。ゴメンね?寝起き悪くて」
思いっ切り罰が悪い。
何だこの淀んだドブ川みたいな空気。
いや、私のせいなのは百も承知ですけど、ハイ。
「ほらほら!時間が無いんですから早く行きますよー!」
いつにも増して真っ赤な口紅を
数ミリほど厚く塗り込んだ唇で、
畑野先生は大声を張り上げた。
その後に『行こっ?』と、
ぶつくさ言いながら先生の後に
ゼミ生が着いて行く。
ものの数秒ですっかり車内に取り残された私は、上着を引っ張りながらボストンバッグを肩に掛け、皆の後ろ姿を必死に追いかける始末。
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