165 / 399
恋はさざ波に似て
思い出してはいけない誰か
しおりを挟む君だけは……。
それはとても懐かしい声だった。
いつか聞いたことのある歌の
ワンフレーズのように、
頭の中の奥の奥の、そのまた奥で呼びかけるように反芻している。
甘くほろ苦い、初恋のような痛みが胸の中でこもる。
ああ、何だっけ。思い出せない。
昨日書き写した黒板の文字と一緒に、記憶がブラックホールへと
姿を消す。
私は何かを忘れている。
大切な、何かを。
断続的なはずだった今までの人生の中で、
1つだけ空白の期間がある。
抜け落ちたその部分を
思い出したい。
だけど、
そうやって思考を巡らせれば
巡らせるほど、
『何か』が必死に
私の思考を妨げる。
思い出してはいけない。
彼を、
寂しい顔の彼を決して
思い出してはいけない。
私の背中の古傷が、火傷のように
浮かんでいくから……
――思い出してはいけない
『誰か』が、
すぐそこまで近付いている……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
267
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる