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恋の矢印

謝って済むのなら、警察は必要ですね。

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「すみません?謝って済むのなら、警察は必要ですね。」


千鶴はクククと邪悪な笑いを喉で鳴らすと、携帯で『110』を押し始めた。

何か見たことあるような光景。


「いや、それを言うなら
『いらない』じゃ‥‥。」


「ほほう、そんなに入りたいですか?豚箱。
そんな孤独な生涯を送るのならいっその事、僕が葬って差し上げます。
今すぐ。今すぐ。今すぐに!!」


千鶴がドスの効いた声でそう脅すと、総大くんの長い前髪を思い切り引っ張り上げた。

ていうか、ブチブチとか言って、髪の毛が何本か抜けた。


「ひ、ひぃぃぃいい!!!」


初めてお目にかかった総大くんのつぶらな瞳は、涙を浮かべていた。


「ダンナ、ごめんなさぁぁい!!」


―ドタバタ‥‥ガチャン!!


そして物凄い勢いでドアの向こうへ消えた。

ああ、玄関に並べてあった靴が散乱。


「おっかしぃ~。ホントに恐いんだね、アンタのコトが。」


「恐い?この僕が?むしろあの男の方が恐い位ですよ。
‥‥嗚呼、恐ろしい男!
僕の澪を独り占めにしておいて
被害者面ですよ!」


キィーッ!

千鶴はハンカチを噛みながら、
昔の少女マンガで表現されるような白目を向いた。


「あれ、それより葵くんは?
アンタまた追い出したわね!?」


「ふん、何ですか何ですか何ですか。
澪はあの男だとかあの小僧の事ばっかり!
そんなに僕を泣かせて楽しいですか‥‥くすん。」


くすんじゃねーよ、ホント面白いヤツ。

千鶴はさめざめと泣きながら両手で顔を覆った。



「まぁ、楽しい‥‥かな?」


ちょっとした意地悪でそう言ってみる。


「ガーン!!そうなんですか!?」


「ガーンて、口で言うなよ。」


「いやいや、澪が楽しいのならば何よりです。」


今度は『ふふん』とか言いながら、いつものように優雅に髪を掻き上げた。

 
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