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恋の矢印
最初から知らない方がいい
しおりを挟む―キャハハハ
鐘の音に導かれた子供が、
楽しそうに私達がいる公園前を駆けて行った。
すると2人いた内の女の子の方が、雪に足を埋もらせ派手に転んでしまった。
そして、すぐにもう1人の男の子が雪まみれになった女の子に
手を差し出した。
女の子は寸前、泣き出しそうな顔をパァッと明るくして、
そのまま2人、夕闇に溶けて行った。
「‥‥知らなくてもイイ。」
私はその子供達を暗がりの向こうまで見届けると、切ない気持ちで胸が溢れるのを確認した。
心臓が、ぬるま湯に浸っているみたいに心地良い。
何だろう。懐かしい。
あの男の子を見て、克哉のこと
思い出したせいかな?
―ズキッ
針が、ぬるま湯に浮かんでいた
心臓を直撃。
私は一瞬にして切ないモノを、
苦しいモノに変えた。
昔はあんなにも、甘やかで切なかったというのに。
今じゃあこんなにも、
こんなにも、苦々しくて残酷だ。
何で子供は大人になってしまうのだろう。
「‥‥知らなくても、イイことってあるでしょ?
特に男のことなんか。
知らないことがいっぱいありすぎて、腹が立つ。
そんなの、ハナから知らない方が楽。何も無かった方が、
遥かに楽。
ナゾナゾじゃないんだから、
いちいちヒント見付けて答えを当てたくないもの。
そんなの、面倒以外の何者でも無いわ。
苦い想いをする謎解きの時間に
耐えられない。
それなら最初から、全部、全部、教えてくれればイイ。」
息継ぎも無く紡いだ言葉が、
白い息に乗って大気中に消えていった。
私は、たった今口にしたことを
後悔している。
総大くんは、神妙な顔。
いや、呆気に取られているのだろうか。
ポカンと口を開けている。
「‥‥アネゴ、すごいな。」
「は?」
プツプツと顎から生えている無精ヒゲを、指でポリポリ掻きながら総大くんは言う。
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