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恋の矢印

ダンナの事っスか?

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「アネゴ?」


総大くんがへの字に口を曲げながら私を見つめてきたので、
我に帰る。

ダークアッシュのパサパサの髪が、雪景色と混ざって幻想的に映った。



「あー、いや。何でも‥‥。」


「ダンナのことッスか?」


「はぁ!?」



この、『いかにも図星です』
と言ったも同然の返答に、心の中で舌打ちをする。



「何で、アイツなの。」



『んなアホな』という表情を見せるコトですらもう、億劫だと言うのに。



「何でって‥‥付き合ってるんでしょ?」


「はぁ~‥‥。
このパターン飽きたわ。否定するのも疲れたよ、ったく。
付き合ってマセーン。」



『お分かり?』と付け加え、威嚇するように人指し指を総大くんの顔に突き付けた。



「あっは、必死ッスね。」


「誰が。」



「第一印象サイアクなアイツ!
だけどひょんなことから意識し始めて、今まで知らなかったアイツの素顔を見てる内に‥‥何故か胸が締め付けられて‥‥!」


「殴るよ?」


「あ!す、すいませ~ん!調子に乗りすぎましたぁ!」



冗談にも私がすごむと、総大くんはあからさまにビクリと体を跳ねさせた。



「‥‥だけど、違うんスか?」


「何が?」


「その‥‥ダンナのことッスよ。」


「だーかーらー!
何がっつってんでしょ!」


「‥‥まぁ、中坊みたいに冷やかすわけじゃあ無いんスけど。
ダンナは、アレでもイイ男だと思いますよ?オレ。」


「アレでも?」



私が脅すように片眉を吊り上げてそう言えば、わーわー騒ぎ立てながら『今のは内緒で!』と、
必死にすがってきた総大くんが微笑ましかった。
 
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