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恋の矢印

動揺

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チャイムが鳴り響く。
先生が教壇に立つ。

私は教科書とノートを机に出して

懸命に講義を聴いているフリをする。


昨晩、何事も無かったかのように平静を装う。

だってそうしなきゃ今にも眩暈が襲ってきて、今にも泣き言を漏らしそうだから。


―私は平気


先生が、学年末考査の試験範囲の説明をしている。

加奈子が、『澪ちゃん澪ちゃん』と横から焦った声で私を呼んでいる。


―私は平気


試験範囲について話していたはずの先生が、いつの間にか問いを私に当てていた。


―私は‥‥平気


問いの内容が、全く分からない。
私の教科書は、違う教科のモノだった。
間違えて持ってきた。


―私は‥‥‥‥



『土屋さん、今まで何を聴いていたんです』
と、顔をしかめる先生。

『澪ちゃん大丈夫?』
心配そうに囁いてくる加奈子。

ざわめくクラスメイト。



そして、

克哉のことを考えている、私。

 
 
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